0.はじめに
大抵の場合、乙女ゲーは「ギャルゲーが女性向けになったもの」として認識されている。一般的に、乙女ゲーもギャルゲーも、同じ恋愛ゲームの括りに入れられてしまう。それによって、乙女ゲー文化の独自性というものが見過ごされてきたことも多いのではないだろうか。
しかし、この二つには背景文化の決定的な違いがあるように思える。
乙女ゲーとギャルゲーは同じ恋愛ゲームというジャンルに収まるものではなく、寧ろ別ジャンル、異なる文化圏なのではないかという気さえしてくる。
そこで、この記事ではギャルゲーと乙女ゲーには一体どのような文化の差があり、磁場の差があるのかについて私なりに感じたことをまとめたい。
1.乙女ゲーム、ギャルゲーとは何か
まず、乙女ゲーム(おとめゲーム)とギャルゲーの説明から入ろう。
乙女ゲーム(おとめゲーム)とは、女性向け恋愛ゲームのうち、主人公が女性のゲームの総称である。「乙女ゲー」「乙女ゲ」「乙ゲー」などと略称される。
ギャルゲー(ギャルゲーム)は、男性向け恋愛ゲームのうち、主人公が男性のゲームの総称である。
では恋愛ゲームとは何か。
恋愛ゲームの多くは、ノベルゲームの形式を採用している。
ノベルゲームの形式はゲームとしては単純だ。基本的には静止画の絵とBGM音楽が付いた小説をゲーム画面で読み進めるだけである。
これは音声付き紙芝居を自分で読み進めるようなものだ。そして、ストーリーの途中で時々現れる選択肢をプレイヤーが選択する。主人公が次に言うセリフだったり、次に起こす行動なりをゲームプレイヤーが選ぶことでゲームの結末が変化するようになっている。
ストーリーの結末が自分の選択で変化する小説というのが分かりやすいか。
乙女ゲーやギャルゲーといった恋愛ゲームはノベルゲームの中でも恋愛に特化したものであり、主人公がストーリー上で出会うキャラクターと恋愛する事がストーリーの主軸になっているノベルゲームである。
ストーリー上で主人公と結ばれる可能性のあるキャラクターは何人か登場する。ゲームプレイヤーは選択肢を選ぶ事で主人公の言動を変化させ、うまく恋愛対象のキャラクターと結ばれるように物語を進める。
2.”乙女ゲームはギャルゲーは同じジャンルのゲームなのか?”
さて、ここからが本題だ。
一般的に、乙女ゲーもギャルゲーも、同じ恋愛ゲームとして括られている。どちらも一人の主人公に対して恋愛対象キャラクターが複数登場する。また、どちらもゲーム上の恋愛対象キャラクター(攻略キャラ)を攻略する為にプレイヤーが選択肢を選んで主人公の行動を変化させる。そして、どちらもプレイヤーの選んだ選択肢によってエンディングが様々に変化するマルチエンディングのノベルゲームである。
よって、一般的には乙女ゲーは攻略キャラクターが男性になったギャルゲー、つまりギャルゲーの想定客層が女性になったものとして見られがちである。だが、乙女ゲームとギャルゲーでは、そのジャンルの性質、顧客獲得の戦略から、進化の系譜も全く別物だと言っていい。
これは一体どういう事か。その説明に入る前に次の事を考えたい。
3.恋愛ゲームの根幹
まず、恋愛ゲームおいてその商品価値を決定する重要なファクターは何だろうか。
ストーリー、話の面白さ、それから音楽、絵、文体。ここまでは恋愛ゲーム以外のノベルゲ―と評価基準はさして変わらない。問題なのは肝心の恋愛要素だろう。これに対しては様々な意見があり得る。例えば次のように言う人がいるだろう。
”攻略キャラクター(主人公と恋愛関係を結ぶキャラクター)の魅力(性的な魅力)だろう。主人公と恋愛関係になるキャラクターが魅力的じゃなかったら、プレイヤーはそれを攻略する気など起きないのだから。”
上のような思考からは当然、次のような問いも生まれてくる。
”では、どのようにして主人公の恋愛対象である攻略キャラクターを魅力的に見せるか。”
この課題の解決において乙女ゲーとギャルゲーは全く別の道を進んでいる。乙女ゲーとギャルゲーでは、この課題の捉え方がそもそも違っているのだ。
まず、どのように攻略キャラクターを魅力的に見せるのかという点について、ギャルゲーは一つの困難に激突した。それは、主人公と恋愛している攻略キャラを魅力的に見せつつも、まるでそこに自分がいるかのような感覚をプレイヤーに与える事、プレイヤーをゲームに没入させる事の困難である。
恋愛関係には二人の人物が必要だ。恋愛関係のみならず、あらゆる関係性は当然そこに二人以上の人間が存在しなければ成立しない。しかし、恋愛ゲームにおいて、ストーリー上で攻略キャラクターと恋愛しているのはプレイヤーではなくゲームの主人公である。ここでプレイヤーに「自分じゃない他の誰かと恋愛している攻略キャラクターを見せられている」という感覚を与えてはいけない。
他人の恋愛を見せられても面白くない。まして、その人物が好きであるなら、自分以外の人物と恋愛している様子など見たくはないだろう。
ギャルゲーはこのような結論に至り、以降、多くのギャルゲーでは主人公のキャラクター性は抑えられ、主人公は無個性で透明な、感情移入のしやすい、普通の人物として描かれる(例外はある)。
”主人公がゲーム画面に登場する頻度や場面はなるべく少ない方がいい。そんな事をすればプレイヤーは攻略キャラが自分以外の誰か(主人公)と恋愛している事に気が付いてしまう。”
このような結論に至ったギャルゲーというジャンルでは、主人公のキャラクター性が強調された作品や主人公の顔がゲーム画面に登場する場面は極力抑えられる傾向にある。交際の疑似体験をプレイヤーに提供するところにゲームの意味を見出せば、当然の帰結として、主人公=プレイヤーという感覚をどのように保つかという点に細心の注意が払われなければならない。
4.乙女ゲーの不思議
では乙女ゲーはどうか?
説明に映る前に下記サイトを見ていただきたい。
ワンド オブ フォーチュン 〜未来へのプロローグ〜 ポータブル
上記は「ワンド オブ フォーチュン」という乙女ゲーの人気投票結果だが、見ての通り主人公の順位は4位である。順位もさることながら、人気投票の投票先にちゃんと主人公も用意されていること、ちゃんと一定の票が集まることには驚く方もいるのではないだろうか。(このゲームは攻略キャラクターが3人しかいないとかそういう事ではない。ちゃんと主人公と恋愛関係になるキャラクターも下の方にいる)
次にノルン+ノネットの人気投票である。こちらは主人公が3人というゲームだが、こちらでも主人公たちは中々の数の票を集めている。
www.otomate.jp
次にcode Realize、こちらのタイトルも主人公は3位にポジショニングしている。
こちらは人気投票ではないが、サイトを見ると主人公の絵が中央に大きく占めている事が分かる。
このように、乙女ゲームはギャルゲーとは主人公の扱い方、扱われ方がそもそも違う。上記に挙げた作品が偶々なのではない。そもそも乙女ゲームのストーリー途中で登場するスチル(CG、静止画)では、攻略キャラだけでなく主人公も映っている事が多い。つまり、ゲーム中の重要な場面では、画面上に主人公が登場するのである。実際のゲームだけではない、乙女ゲーの掲示板においても主人公の容姿、性格、設定等はそのタイトルの購買判断をする上で重要なファクターとして扱われているのである。
ギャルゲーは(プレイヤーの)恋愛ゲーム、乙女ゲームは(主人公の)恋愛ゲームである。
では、なぜこんなことが起こるのだろうか?
結論から言えば、乙女ゲーとギャルゲーでは、ルート分岐の性質がまるで違うのである。ルート分岐とは、単一の物語開始地点から複数の結末(マルチエンディング)にストーリーが分岐している状態を指している。ゲームスタート時、プレイヤーには選択肢によって複数のエンディングの可能性が用意されているが、この要素の扱い方が乙女ゲーとギャルゲーでは違いがあるのである。
今回はここまでにしよう。次回からはより本質に迫る論へと展開する。
【次回記事とゲーム紹介】
tatsumi-kyotaro.hatenablog.com
(↓今回紹介しなかったけど面白かった乙女ゲー)
(↓今回紹介した乙女ゲー)
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