京太郎のブログ

社会問題についてと作品評論を書いてます。

2019-01-01から1年間の記事一覧

『虚構推理』と本格ミステリ

1.ミステリとは何か 2.アンチミステリとしての多重解決 3.ポスト本格ミステリとしての『虚構推理』 1.ミステリとは何か 『虚構推理』のアニメ化が決定し、ミステリにも若干のスポットライトが当たり始めている今、この記事では、80年代の新本格と呼ばれる黄…

公共空間の消失とアイデンティティの時代を生きる

0.なぜいま公共について考えるのか なぜ今公共概念を問う必要があるのかと言えば、公共という概念が消失しているということを通して「左翼と右翼の対立」を問い直す必要があるからだ。 私がこれから言及するリベラリズムという概念は一般に膾炙している「リ…

自己責任論と共感性

1.「優しい」自己責任論 2.寄付の物語 3.物語とナショナリズム 1.「優しい」自己責任論 現在の世論の中には、貧困問題や性被害の問題などは個人が解決すべき問題であるから社会全体の問題にするべきではないとするような自己責任論が存在している。 例えば…

偽善者叩き、偽善批判の偽善~しない善よりする偽善?~

1.エンタメ化する偽善バッシング 2.全ての弱者を支援することの不可能性 3.しない善よりする偽善? 4.うしろめたさと同居すること 1.エンタメ化する偽善バッシング 前回までの記事では、差別や貧困、犯罪などの数多くの社会問題がこの世界に存在することを認…

「真の弱者」はどこにいるのか~「キモくて金のないオッサン(KKO)」論の誤謬~

0.前回までのあらすじ 1.「真の弱者」論 2.「キモくて金のないオッサン(KKO)」論 3.弱者性のブランド化、同情の再分配 4.同情(承認)争奪戦としての弱者論争 0.前回までのあらすじ 前回の記事で、人間には弱者や被害者の存在を否認することでこの世界を正常だ…

新海誠の言葉と風景~「いつか」「きっと」という希望、あるいは呪い~

1. 届かない「言葉」と人を繋ぐ「風景」 2.「届かない距離」という問題、「いつか」「きっと」 3.柄谷行人と新海誠 前回までの記事で、新海誠の基本的な特徴について見てきた。(以下、参照) 各記事で見てきた新海誠の特徴は以下の通りである。 ・ストーリー…

新海誠の風景とぼかされる背景

0.新海誠の描く「風景」 1.「風景」を見るという「こと」 2.「風景」の思想性 3.ピンボケについて 0.新海誠の描く「風景」 前回までの記事で、新海誠の映画においては「風景」(≒景色)が人と人の心を繋ぐ役割を果たしているということについて確認した(↓前回…

新海誠と言葉~過剰な独白・モノローグと届かない言葉~

0.前回までのあらすじ 1.言葉の不完全性、未完成な言葉 2.コミュニケーションにおける言葉 3.補足 0.前回までのあらすじ 前回記事のリンク↓ tatsumi-kyotaro.hatenablog.com 前回は新海誠の映画に見られる以下の三つの特徴について書いてきた。 ・新海誠の描…

新海誠とその映画の特徴について~考察・解説~

0.はじめに 1.新海誠のロマンティシズム 2.言葉の機能不全と過剰な独白 3.新海誠の描く「風景」と焦点のぼやけ 4.まとめ 0.はじめに 新海誠の映画が話題になるようになって久しいが、新海誠の映画にどのような特徴があるのか、新海誠が自身の映画の中で何を…

被害者叩き、弱者叩き、自己責任論を批判する~公正世界仮説とは何か~

1.公正な世界を求める人ほど弱者や被害者を責める 2.被害者叩き、弱者叩きの典型 3.本当に人は公正な世界を望むのか? 4. 公正世界仮説(公正世界信念)のやっかいさ 1.公正な世界を求める人ほど弱者や被害者を責める 弱者や被害者は救済されるべきかという問…

モラハラ夫と「優しい支配」~信頼が消える日~

1.モラルハラスメントとモラハラ擁護論 前回の記事では、恋愛関係のトラブルにおいては「同意の有無」「合意形成の過程」より「悪気があったのか」「どのような意図だったのか」という点ばかりに焦点が当てられてしまうことを警戒すべきだと書いた。 tatsumi…

「心地よい支配」「優しい支配」としての恋愛

0.前回のあらすじ 1.「良い恋愛」と「ダメな恋愛」 2.「優しい支配」を望むこと 3.では何が問題なのか 0.前回のあらすじ 前回まで恋愛工学への批判について見てきた。 これまで見てきた批判は、恋愛工学は女性をモノとしてしか見ておらず倫理的に問題である…

恋愛工学は科学的な宗教か、宗教的な科学か

0.「科学的」とは何か 1.恋愛工学概要 2.Google検索される「科学」 3.科学と「科学」 3.恋愛工学という宗教 4.「科学」の宗教性、宗教の「科学」性 0.「科学的」とは何か 近代以降、科学によって多くのことが証明されてきた。 科学によって説明が可能になっ…

【批判】「オリエンタリズム」としての「恋愛工学」

0.はじめに 1.恋愛工学とは何か 2.現代の「オリエンタリズム」 0.はじめに 今回の記事は、前回の記事の内容についてより具体的に言及していくことにする。 まず、前回の内容を振り返ろう。 前回の記事では、「役に立つ学問」の何が問題なのかについて「支配…

「役に立つ学問」の危うさ〜人が支配される瞬間〜

0.はじめに 1.支配するとは何か 2.自由に操る為に必要な条件 3.支配的欲望が「研究」として現れる瞬間 0.はじめに 「大学に文系学問はいらない。なぜなら文系学問は役に立たないからだ」といった類の文系廃止論が叫ばれて久しい。 これに対する反論は大きく…

社会を変えるために必要なこと

1.これまでのあらすじ 2.健全な議論による社会の変革に期待すべきか 3.これからの論点について 1.これまでのあらすじ ネットでは基本的に、議論は議論ゲームへと変更されるように力が働く。それは、社会的弱者や、マイノリティの主張を相対化し弱める力であ…

ネットの議論の勝ち負けにこだわらない

1.前回までのあらすじ 2.議論ゲームでフリーライダー側は勝利しなくても良い 3.議論ゲームの不利は覆せるか? 4.今、私たちに何が出来るのか 1.前回までのあらすじ 前回まで記事で、ネット上の議論ゲームではマイノリティ側が勝利を収める事は非常に困難であ…

議論における安易な相対化

0.議論ゲームという地獄~前回記事参照~ 1.「常識を疑え」という標語の危うさ 2.無視するという戦術 0.議論ゲームという地獄~前回記事参照~ 前回までの記事では、ネットの議論は公正な議論というよりも、社会的弱者・マイノリティ側が圧倒的に不利な議論…

ネットで議論をしない方がいい理由

0.はじめに 1.インターネットでは価値観が同じ人同士が集まりやすい 2.理想的議論とネットでの「議論」の違い 3.ネットでの「議論」 【次回記事&関連記事】 【雑なネットの議論の論点を整理した記事】 【参考文献】 0.はじめに 今回の記事は、ネットで行わ…